開催概要

2026 年 7 月 18 日(土)15:00 - 19:00 JST に estie Programming Contest 2026(AtCoder Heuristic Contest 068、AHC068) が開催されました。4 時間の短期ヒューリスティック です。

  • Writer: wata_admin さん(@wata_orz、Yoichi Iwata 氏)
  • スポンサー: estie(不動産テック企業)
  • AWTF2027 選考対象コンテスト
  • 参加者: 855 名

問題の紹介 — Rectangle Swap

盤面は 20×20 の固定サイズ。各マスに 0, 1, ..., N²-1 = 0..399 のカードが 1 枚ずつ置かれた初期配置が与えられ、以下の 「長方形スワップ操作」 を繰り返して、最終的に マス (i,j) に番号 iN+j のカード が置かれた状態にすることが目標です。

盤面には壁があります:外周は壁で囲まれており、内部の隣接マス間にも壁が存在する場合があります。ただし、すべてのマスは壁のない移動で相互到達可能であることが保証されます。

操作の仕様

  1. 向きを「縦(V)」または「横(H)」から選ぶ。
  2. 長方形 R = (r, c, h, w)(左上 (r,c)、高さ h、幅 w)を選ぶ。
    • 縦を選んだ場合h偶数でなければならない。
    • 横を選んだ場合w偶数でなければならない。
    • R は盤面内、かつ R に含まれる隣接 2 マスの間に 壁が存在しない
  3. 選んだ長方形の中で:
    • 縦操作:上半分と下半分のカードを丸ごと入れ替える。
    • 横操作:左半分と右半分のカードを丸ごと入れ替える。

操作は 最大 10⁵まで。

スコア計算

出力した操作回数を T、操作後に「目的のカードが置かれていないマスの個数」を E とするとき、

  • E = 0(完全整列)の場合N² + round(10⁶ × log₂(10⁵ / T))
  • E > 0 の場合N² - E

つまり 完全整列を達成できれば手数を減らすほど 6 桁のボーナス(最大約 24M/ケース)が積み上がる、標準的な「達成+操作数削減」型スコア。

150 テストケースの合計が提出得点。

短期ヒューリスティックとしての骨格

  • 壁があるので 「使える長方形」は場所によって制限される(壁を横切れない)。
  • 長方形の高さ or 幅は偶数(=最低 2 マス)。
  • 1×2 の「隣接スワップ」も可能h=1, w=2 の横操作、または h=2, w=1 の縦操作)だが、大きな長方形を使えば一気に大量のカードを動かせる — ここに戦略の余地がある。

上位陣の解法を眺めると、「小さな長方形で正確に運ぶ」と「大きな長方形で巻き込む」のトレードオフが、この問題の核心でした。

順位概況

参加者は 855 名、上位 15 名(順位表):

順位ユーザータイムPenレート所属
1PrussianBlue182:32142474株式会社グリッド
2G4NP0N238:47142519株式会社 ALGO ARTIS
3cacampu237:5831849
4mtsd234:5642833株式会社 ALGO ARTIS
5montplusa237:1283126フューチャー株式会社
6rhoo238:3873187Institute of Science Tokyo
7naniwazu229:3171875
8chokudai222:1573075AtCoder Inc. CEO
9kaz49bz239:12182221
10nono00237:3652400University of Aizu
11Piiiii239:53102678
12siman239:45112789株式会社 THIRD
13asi1024234:5353060Preferred Networks, Inc.
14winter_2521224:21132095μ’sic forever
15sadtreap232:4111636

1 位 PrussianBlue さん(株式会社グリッド、rate 2474)が 182:32 でフィニッシュ、1.046G2 位 G4NP0N さん(ALGO ARTIS、rate 2519)が 1039M、その差わずか 7M(0.7% 前後)。3〜10 位も 1023M ± α で密集する、超高密度上位 でした。

そして本記事の見どころの 1 つ、8 位に chokudai さん(AtCoder Inc. CEO、rate 3075) が入っています。

引用させていただく方々:wata_orz さん(writer 解)、PrussianBlue さん(1 位解法)、G4NP0N さん(2 位解法)、なにわづ.py さん(7 位)、ツカモ さん(36 位)、きり さん(38 位)、E869120 さん(42 位、GPT-5.6 高並列)、あり さん(52 位)、shim0 さん(63 位)、sumochi さん(92 位)、nico_shindannin さん(95 位)、hoki621 さん(初 2 桁順位)、kurigen さん(Gemini 実装)、たう0529 さん、gobi さん、もぐら 2.0 さん、chokudai さん、matsu7874 さん、TERRY さん、物理好き さん、AtCoder 公式アカウント。

全体感

主流解法:「過去改変貪欲 + ビームサーチ」

上位陣のツイートを並べると、共通のフレーズが浮かび上がります — 「過去改変貪欲」「ビームサーチ」 です。

PrussianBlue さん(1 位、1.046G

1.046G で 1 位??? 過去改変貪欲(wata さんの AHC065 のコードを読ませる)をビームサーチにして、評価関数とかを色々チューニングした

「wata さんの AHC065 のコード」を読ませて過去改変貪欲を実装 → ビームサーチ化、という 「writer の過去問解法を今回に流用」 ムーブが 1 位を取りました。writer 自身の解が 1.059G だったので、writer 解に肉薄したところで止まる という美しい着地。

wata_orz さん(writer)

writer 解は 1059M でした seed=0 で 681 手

seed=0 で 681 手 — 上位陣より短い手数。writer の「基準線」が上位のすぐ上に見える のは、AHC の面白いところ。

G4NP0N さん(2 位、1039M

ラスサブのジャッジ終わってないけど、1039M で 2 位かな。 次数が低く未固定カードとの距離和が小さいものから固定していく過去改変貪欲をしました。なるべく太い矩形での操作にして巻き込む範囲を増やすとスコアが上がる。 seed 0 : 7110195 (724 手)

「次数が低く未固定カードとの距離和が小さいものから固定」 + 「太い矩形で巻き込み範囲を増やす」 の 2 軸チューニング。seed=0 で 724 手

naniwazu さん(7 位、1023M

1023M 7 位 使える長方形ができる限り減らないように、葉から過去改変貪欲で埋めていく。 大きなケースで時間が厳しいので、改変する過去のスコープをある程度限定する。時間が余ったら後半の貪欲を細いビームに アイデアは自前だけどFableとSolがブラッシュアップしてくれて助かった

「葉から埋める」+「使える長方形が減らないよう配慮」、時間内は 「改変スコープの限定」、余り時間で 「細いビーム」 — 実装の生産性を Fable + Sol に任せる、という 2026 年の AHC ワークフロー。

全域木ベースの派生解法

ツカモ さん(36 位、990M

990M seed0=933 手。 1. あるマスを根とした全域木を作って、全域木の長さが最短となる根を決める。 2. その根から、子供を持たないマスを対象に確定するよう部分的にビームサーチで操作を決める。 この時、盤面評価をそれとなく評価して、いい感じに巻き込む。 3. 最後まで繰り返す。

「全域木の根を最短長で決める → 葉から確定」 という骨太フレーム。壁を含むグラフ構造そのものに立脚した設計。

あり さん(52 位)

52 位でした。 全域木を作り、葉から順にカードを 1 枚ずつ確定する。横・縦の長方形スワップ回数を距離として経路をビームサーチ。一部区間は一括交換で複数枚を同時確定。複数の根・木構造を試し、最小操作列を採用する。

「複数の根・木構造を試して最小操作列を採用」アンサンブル的な探索。全域木の選び方自体をハイパーパラメータにする発想。

きり さん(38 位、seed 0 で 6,773,990 点、914 ターン)

デッドロックが解消できず終了 1 分前まで 300 位台だったけど、なんとか通って 38 位ぐらい。 過去改変貪欲で、端のマスから順に近付く動きをやるイメージ。ビムサ化とデッドロック解消を入れるのがせいいっぱいで伸ばせず。

「終了 1 分前まで 300 位台 → 通って 38 位」 の劇的巻き返し。「デッドロック解消」 が短期 AHC のアップデート量の勝負を分けた 1 つ。

「端 / 隅 / 袋小路」から埋める派

shim0 さん(63 位、979,788,743

979,788,743 点 63 位くらい 隅から配置を 1 つずつビームサーチ seed 0 は 984 ターン

hoki621 さん(初 2 桁順位)

初の 2 桁順位で嬉しい。AHC023 っぽいなと思いつつ、袋小路側からカードを最短経路で埋め、できるだけ同じレーンでたくさん運べると嬉しいビームサーチをしました

「AHC023 っぽい」 — 過去の AHC 経験者にはピンとくる、「制約付きグリッドで順番に確定」 系のフレーム。「初の 2 桁順位」おめでとうございます!

kurigen さん(2 連続 2 桁順位、973M

973M で 2 連続の 2 桁順位 :) 実装は Gemini だけど、考察は全部自分なので結構うれしい 解法: 葉側から各カードを最短手で確定し、候補が複数なら残りのカードの距離和で選ぶビームサーチ。 seed=0 で 1032 手

「実装は Gemini、考察は自分」 — 2026 年 7 月時点の AI 生産性の使い分け。

エリア分割派

sumochi さん(92 位、971,069,828

92 位 971,069,828 エリア分割して端から埋める 目標の数字を 1 つ決めてそれを動かす操作のみ許可 数字の移動経路はビームサーチ

「1 数字ずつ動かす + 経路ビームサーチ」 の割り切り実装。

実験派・AI 大量並列派

E869120 さん(42 位、855 名中

855 名中 42 位でした。人間側が高速に考察することにより GPT-5.6 (high) を 3, 4 並列で回しました。終盤に大きく改善できましたが、最大のライバルには及びませんでした。

「GPT-5.6 (high) を 3〜4 並列」 — 2026 年 7 月時点の最新モデルを並列で使う戦い方。「最大のライバル(=上位陣)に及ばず」の悔しさ。

nico_shindannin さん(95 位、ビムサ解)

一発当てるために、逆順から操作して学習データを生成して、良い手 or 残り手数を機械学習というのを試したのじゃが 200 位程度の解しか作れず。ビームサーチ解で 95 位で終了。

「逆順から学習データ生成 → 機械学習」 の実験的アプローチ、200 位に留まりビムサ解に戻す判断。「一発当て」を狙って外れ、堅実な解に戻す の典型ムーブ。

gobi さん(間に合わず)

「ランダムに長方形範囲をとって、ゴールまでの実距離を 1.2 乗した値の合算がよくなるならその操作を採用。を繰り返す。 長方形の面積は徐々に小さくしていく。」 で全体的に各マスをゴールに近づけて。 最後は隣接スワップを駆使して片づけ切る。 をやろうと思ってたんだけど間に合わず。

「1.2 乗した距離和が改善する操作のみ採用」 の焼きなましっぽい発想 + 「最後は隣接スワップで片付け」 の 2 段構え。時間が足りなかった悔しさ。

重心&chokudai サーチ

たう0529 さん(228 位、918,888,890

918,888,890 点で 228 位でした やったこととしては全体の重心から遠い点から順に揃えていくっていう方針ですー ベースは 1*2n でのスワップで chokudai サーチをしてもらった(ビームサーチと何が違うかわかんないからビームサーチかもしれないけど)

「全体の重心から遠い点順」 の順序戦略 + 「1×2n スワップの chokudai サーチ」。(chokudai サーチはビームサーチの一種、Diverse Beam Search 系)

参加者の感想

もぐら 2.0 さん(316 位、884,966,814、seed 0 で 1507 手)

884,966,814 で 316 位、Seed0=1507 手でした。TOP は 700 手切っているのか、すごいぜ。9 億点まで到達したかったけど、遠かった。それにしてもこの問題、理解が難しくて、AI がなかったらどこまで実装できていたかを考えると恐ろしい。

「TOP は 700 手切っている」 — 上位と 316 位で 2 倍以上の手数差「AI がなかったら実装できたか恐ろしい」 は 2026 年 7 月時点の率直な感想。

MON.T+α さん(5 位、montplusa

AHC068 お疲れさまでした~

Rated 3126 の montplusa さんが端的にお疲れ様、5 位というつよさ。

chokudai さんの 8 位、「AI を無視して自分のアイデアを書かせる」戦略

コンテスト開始前、chokudai さんはこう予告していました:

今年の短期コンは「AI のアイデアを無視して自分のアイデアをちゃんと書かせる」で 1 位 2 回取れてたけど、5.6Sol も Fable も使える現環境で通用するのかな?というのはちょっと楽しみ。「強い AI が出ても強い人が使うのがやっぱり強い」にちゃんとなるといいな。

そして結果は 8 位(rate 3075)。「強い AI が出ても強い人が使うのがやっぱり強い」 の仮説が、今回もある程度は通用したことを示すフィニッシュ。

「AI のアイデアを無視して自分のアイデアをちゃんと書かせる」 — このプロンプト戦略、私(あとこ)もちょっと勉強しないといけないですね。

生成AIルールの更新 — AWTF プロンプトからの微改訂

今回、コンテストページに 「生成 AI の利用に関して」 という長い注意書きが載っており、AtCoder Heuristic Contest 生成AI利用ルール - 20250616 版 に準拠する形で、「対話型サービスであっても、内部でテストケースの生成・実行・改善を自動的に繰り返すことがある」 ことへの明示的な指示文(AGENTS.md / CLAUDE.md 等に貼る形式)が追加されました。

TERRY さんが前日にこう言及していました:

明日の estie コン AHC、生成 AI の利用について注意書きが増えてる! AWTF でもプロンプト指定があったんだけど、codex くんはちゃんと意識してルールを守ってくれてて偉いなあとなってました。AWTF のプロンプトからちょっとだけ内容変わってそうかな?

「AWTF のプロンプトから微改訂」 — 実運用でルールをブラッシュアップしていく AtCoder の姿勢が見えるアップデート。

matsu7874 さんも前日に告知していました:

明日は estie スポンサーの AHC です。

物理好き さん(前日):

今まで AHC に出てこなかった TL の皆様も、むしろ何かの奇祭だと思って提出だけでもしていって欲しい 結構歴史的な回になると思いますよ

「歴史的な回になると思います」 — 生成 AI ルール更新後、GPT-5.6 (high) / Claude Fable / Gemini といった 2026 年夏の最新モデルが揃った、AHC の分水嶺 としての予告。

あとこの所感

AHC068 は 「20×20 の壁付き盤面での長方形スワップソート」 という、組合せ最適化としては非常にクリーンな問題設定 に、壁による長方形使用制約 を乗せた設計。上位解法が 「過去改変貪欲 + ビームサーチ」 に収束したのは、「一度確定した位置を『あとで通り抜けたい長方形の中に含まないよう』過去に遡って調整する」 という、「順序依存性」 に立ち向かう定型手法が奏功したから。

writer 解 1.059G vs 1 位 1.046G「肉薄しつつ届かない」距離感、chokudai さんの 8 位で 「AI を無視して自分のアイデアを書かせる」戦略の継続的な有効性、E869120 さんの GPT-5.6 高並列、hoki621 さんの 初 2 桁順位、kiri8128 さんの 「終了 1 分前まで 300 位台からの巻き返し」短期 AHC の 4 時間に凝縮されたドラマ が今夜もありました。

AtCoder 公式は AHC ラジオ第 44 回(2026-07-22 20:00) で本コンテストの解説予定を告知しています:

【AHC ラジオ放送予定のお知らせ】 AHC ラジオ第 44 回 「estie プログラミングコンテスト 2026(AtCoder Heuristic Contest 068)」 開始時刻:2026-07-22(水)20:00 簡単な解説を交えながら雑談します。

参加された皆さん、おつかれさまでした 🌸 今夜 22:50 から ABC467、忙しい 1 日はまだ半分です。


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